2007年09月20日

販売奨励金廃止の理由

総務省のモバイル研が最終報告書,大筋に変更なし」と、最終報告が出てくるようです。

「端末価格と通信料金を区分した分離プランや利用期間付き契約を2008年度から部分導入する」「SIMロックは2010年時点で解除を法制的に義務付ける方向で検討」といった点に変わりはない。

とのことで、「販売奨励金」と「SIMロック」は、見直しが入るようです。
が、「「1円携帯」は消えるか? 総務省研究会の最終報告」のスレを見ると、「なぜ、こうする必要があるのか?」の理由が、うまく説明されていないようなので、独自に補足してみたいと思います。




■「揺れ動く携帯電話の販売奨励金
という、まとめサイトがあるので、「販売奨励金廃止の理由」という点をベースとして、ここから抜粋してみます。



●問題点

ユーザーから見ると,端末を安く買う代わりに,その代金が分割されて基本料や通話料などの通信料金に上乗せされている格好だ。

この販売モデルでは,短い期間で端末を買い替えるユーザーは販売奨励金の恩恵をより多く受けられる。一方,1台の端末を長く使い続けるユーザーにはあまりメリットがない。それどころか,短期間で買い替えるユーザー向けの販売奨励金を,長期利用ユーザーが負担する“不公平”な仕組みになっている。

「受益者負担となっていない不公平」が、問題となっているというお話です。
さらに、「国際競争力がそがれた」というのも、一つの問題点として、よくあげられています。ただ、これがちょっと誤解されているようです。これの原因は、「販売奨励金」ではなくて、「キャリアさん主導による垂直統合開発モデル」だからです。

海外大手メーカーの端末戦略は,世界市場またはアジアなどの地域市場向けが前提となっている。大手メーカーの人気機種は世界各地で販売され,携帯電話事業者も人気端末の採用に動く。そのためメーカーは,人気機種になれば1機種当たり数百万台単位の大量出荷が見込める。
しかし携帯電話事業者の立場では,こうした大手メーカーの端末を採用しても他事業者との差異化にならない。そのため,携帯電話事業者は自社仕様端末の開発に乗り出す。こうした場合の開発は,海外でも日本における端末開発に近い手法が取られる。メーカーにとっては,端末の開発段階で事業者からの一定量の受注が見込めるため,事業リスクを抑える点ではメリットがある。
だが一方で,携帯電話事業者ごとに仕様が大きく異なるため,メーカーは同じ端末を他事業者向けに転用しづらいというデメリットがある。しかも携帯電話事業者が開発に深く関与しているため,端末の転用を事業者が嫌う。そのため特定事業者向けにせざるを得なくなり,1端末当たり数十万台程度の出荷しか見込めない。

ということで、キャリアさんに依存した機能の端末であり、小ロットゆえに量産効果が出にくく高価であるため、国際競争力を失ったのです。そして、この日本の携帯電話端末メーカーさん的な戦略を支えたのが、「販売奨励金」ということなのです。

ただ、「キャリアさん主導による垂直統合開発モデル」にも利点があります。おサイフケータイなどの端末&ネットワークに依存するようなサービスは、このモデルじゃないと相当実現が厳しいわけです。
でも、AppleさんのiPhoneのように、「端末メーカーが儲けの主体」という端末は、市場から排除されてしまうという欠点を持ちます。




●キャリアさんの本音

携帯電話事業者にとってかつては将来の利益が期待できる投資だった販売奨励金が,市場の成熟とともに今や単なるコストになってしまったからだ。販売奨励金のもともとの狙いは,端末を入手しやすくして加入者を増やす「顧客獲得」というものだった。だが最近は,新規加入者数の伸びが鈍化してきたことで,ユーザーの解約を防ぐ「顧客維持」という面が強くなり始めている。

ということで、市場が成熟し、新規顧客を獲得できなくなったため、「販売奨励金」が足かせになっているという理屈です。

でも、これは、本音の一部だと思います。この本音を考える上で忘れてはいけないのは、

キャリアさんは、「垂直統合開発モデル」を死守したいと考えている。すなわち、すべてのコントロール権を握っていたいと考えている。

という点であり、ただの無線帯域を提供するだけの土管屋となってしまうことをおそれているのです。要するに、「ネットワークただ乗り論」における、インフラ提供側になりたくないということです。




●まとめ
そして、これが、前回のエントリーのとリンクしているのです。

キャリアさんが、一社でユーザさんが望むサービスを提供し続けることは、無理があるわけです。

すなわち、「販売奨励金廃止の理由」は、今後、ケータイが、電話以外に使われ出したときの発展のための布石の一つとして考えるとよいのではないでしょうか?イメージ的には、電気が自由化されて、家電開発のコントロールが電力会社から家電メーカーさんに移ったときの垂直統合型から水平分業型への移行とほぼ同じだと思います。

※ちなみに、ここで言う「ケータイ」とは、無線で通信する端末の総称としてとらえています。例えば、携帯電話は、「電話機能を持った」そのうちの一つに過ぎません。
具体的なイメージで言えば、PSPやNDSに、キャリアさんのSIMを刺したら、どこでも携帯電話網を介したネットワーク対戦ができるようになるとかいうものです。(毎回、同じ利用イメージですみません。)

ということで、よく言われている理由の「価格が安くなる」や「国際競争力云々」などは、副次的な効果であると考えていた方がよいです。
とくに、国際競争力に関しては、「日本メーカーさんのケータイが世界的に売れるようになる」わけではなく、AppleさんのiPhoneや噂のGoogleさんのgPhoneなどのサービス事業者が出してくる「サービス連携したケータイ」を、HTCさんのように、OEMとして、ケータイを提供するという形により、生き残るという水平分業型のシナリオが正しい姿だと思います。

そして、この「サービス連携したケータイ」こそが、ユーザさんにとっての真のメリットとなると私は、信じています。




●おまけ
「SIMロック問題」を考慮しなかった理由は、結局、「垂直統合開発モデルのためのキャリアロック」に行き着き、基本的な流れは、同じなので、割愛したというわけです。

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